リッテン鉄道 I-ラック線を含む歴史の詳細

リッテン鉄道 I-ラック線を含む歴史
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記事タイトル リッテン鉄道 I-ラック線を含む歴史
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リッテン鉄道/レノン鉄道 Rittner Bahn/Ferrovia del Renon ボーツェン・ヴァルタープラッツ Bozen Waltherplatz/ Bolzano Piazza Walther ~クローベンシュタイン/コッラルボ Klobenstein/ Colla…… more lbo 間 11.7km軌間1000mm、直流750V電化、最急勾配255‰、シュトループ式ラック鉄道(一部区間)1907年開通1966年ヴァルタープラッツ~マリーア・ヒンメルファールト間廃止 【現在の運行区間】マリーア・ヒンメルファールト/マリーア・アッスンタ Maria Himmelfahrt/Maria Assunta ~クローベンシュタイン/コッラルボ間 6.6km軌間1000mm、直流800V電化(1966年~)、最急勾配45‰ ヴァイトアッハー Weidacher 付近を行く現在の主力車両BDw 4/8形  アルプス越えの交易路が通過するブレンナー峠 Brennerpass。その南側は現在イタリアだが、第一次世界大戦まではオーストリア領チロル Tirol の一部で、今もドイツ語では南チロル Südtirol と呼ばれる(下注)。峠から街道を約80km下ったところに、主要都市ボーツェン Bozen がある。愛すべき小鉄道「リッテン鉄道/レノン鉄道」はその郊外を走っている。 *注 行政上はボーツェン/ボルツァーノ自治県 Autonome Provinz Bozen/Provincia autonoma di Bolzano。 鉄道名は周辺の広域地名に基づいているのだが、二通りの呼び名があることについては少し注釈が必要だ。南チロルではドイツ語話者が6割強を占めており、ドイツ語とイタリア語が公用語になっている。そのため、公共表示は2言語併記が原則で、例えば既出の固有名詞を両言語(ドイツ語/イタリア語)で記すと、以下の通りだ。 南チロル(ジュートティロール)Südtirol/アルト・アディジェ Alto Adigeボーツェン Bozen/ボルツァーノ Bolzanoリッテン Ritten/レノン Renon 他の地名も、初出の際に両言語を併記することにするが、これにより鉄道名も、ドイツ語ではリッテン鉄道(リットナー・バーン)Rittner Bahn、イタリア語ではレノン鉄道(フェッロヴィーア・デル・レノン)Ferrovia del Renon になるのだ。 ちなみに、ドイツ語のリットナー Rittner は、地名リッテン Ritten の形容詞形で、「リッテンの」という意味だ。ところが、地名自体があまり知られていないためか、そのまま読んで「リットナー鉄道」と訳している文献も見られる(下注)。 *注 スイスの「レーティッシェ鉄道 Rhätische Bahn」も同様。 リッテン鉄道沿線の地形図にルート(廃線を含む)を加筆Image from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA  鉄道は、標高1200m前後の高原内を行き来している、延長わずか6.6kmのローカル線に過ぎない。しかもイタリアの標準軌鉄道網とは接続しない孤立路線だ。なぜこのような場所に鉄道が存在するのだろうか。 短距離にもかかわらず電化されていることからも察せられるように、かつては下界のボーツェン市街と線路がつながっており、小型電車が直通していた。旧市街の広場で乗れば、高原の村まで乗り換えなしで到達できるという、きわめて便利な路線だったのだ。 リッテン鉄道は地方鉄道として認可を得たが、実態は市街地の路面軌道(併用軌道)、山腹を上るラック鉄道、高原上の普通鉄道(専用軌道)という、異なる性格をもつ三つの区間に分けられる。後になって前二者が廃止されたため、最後者だけがぽつんと残された。これが現在の姿だ。 ラッパースビヒル Rappersbichl 付近を行くアリオート105号 Photo by Michael Heussler at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0  ◆ リッテンは地理的に、ザルンタール/ヴァル・ザレンティーナ Sarntal/Val Sarentina とアイザックタール/ヴァル・ディザルコ Eisacktal/Val d'Isarco という二つの谷の間に横たわる広い高原地帯だ。標高の違いから、夏場は耐えがたい暑さに見舞われる鍋底盆地のボーツェンに比べて、はるかに快適な気温が保たれている。 すでに17世紀からボーツェンの名門貴族や上流階級の避暑地として好まれていたが、19世紀になると一般の観光需要も高まっていった。1880年代には鉄道の建設計画が唱えられ始め、一方で静かな環境を維持したいと考える人々によって反対運動も起きた。 20世紀に入って、計画は具体化した。山を上る手段にはラック・アンド・ピニオン方式が採用され、1906年7月に認可、着工。翌1907年8月には、早くもリッテン駅とクローベンシュタインの間で一般輸送が開始されていた。残る市内区間を含めた全線での直通運行は1908年2月末に始まった。 鉄道の起点は、ボーツェン旧市街、ヴァルター広場 Waltherplatz/Piazza Walther の南東隅にあった。電車はそこから国鉄駅前を通って北上し、山麓に設けられたリッテン駅/レノン駅 Rittnerbahnhof/Stazione di Renon(下注)まで、街路上に敷かれた軌道を走った。 リッテン鉄道の起点駅ヴァルタープラッツ(1907年ごろの絵葉書)Image from wikimedia.  リッテン駅と呼ぶのは、規模は違うがパリのリヨン駅のように、市内のターミナルに目的地の名(鉄道名とも解釈できる)を冠したものだ。駅名が示すとおりここは拠点駅で、車庫と整備工場があったほか、標準軌の国鉄ブレンナー線 Brennerbahn から引込み線が来ており、貨物の受け渡しも行っていた。 直通運行の開始から間もない1909年7月には、ボーツェンの市内電車としてボーツェン路面軌道 Straßenbahn Bozen が開業する。西郊(1系統)と南郊(2系統)から市内へ入り、ヴァルター広場からリッテン鉄道の軌道に乗り入れて、一部区間を共用した(下注)。しかし残念なことに、リッテン鉄道よりも早く1948年に廃止され、バスに転換されてしまった。 *注 1系統(シュテファニーシュトラーセ Stephaniestraße ~ブレンナーシュトラーセ Brennerstraße)は、バーンシュトラーセ(鉄道通り)Bahnstraße 電停までが共用区間。2系統(ライファース Leifers ~ボーツェン駅前)は共用区間内のバーンホーフプラッツ(駅前広場) Bahnhofplatz が終点だが、駅正面南側に単独のターミナルを持っていた。 ドロミティの山を背景にタルファー橋を渡るボーツェン路面軌道の電車(1910年ごろの絵葉書)Image from wikimedia. 旧 ラック区間が記載された1:25,000地形図10 I SE Bolzano Nord 1963年10 II NE Bolzano 1960年© 2020 Istituto Geografico Militare  さて、リッテン駅を出発すると、いよいよラック区間が始まる。ラックレールはシュトループ Strub 式で、4.1kmの間に911mの高度差を克服した。最大勾配は255‰で、ピラトゥス Pilatus やワシントン山 Mt.Washington には及ばないにしても、オーストリアのシャーフベルク鉄道 Schafbergbahn などと並び、世界で最も急勾配のグループに入るものだった。 ザンクト・マグダレーナ付近を上る旧型車背景はボーツェン駅と市街地(当時の絵葉書)Image from styria-mobile.at  ラック区間では、電車は自らの駆動装置は使わず、後部すなわち坂下側に配置されたラック専用の電気機関車で押し上げてもらう。また、電車(=電動車)が動力を持たない客車(=付随車)を牽いて2両で来た場合は、まず電動車が付随車の後ろに回り、その後ろに機関車を付ける。こうして、坂下側から機関車、電動車、付随車の順になり、坂を上っていった。 ラック区間の車両編成坂下側(=左)から機関車、電動車、付随車マリーア・ヒンメルファールト駅の案内板を撮影 ラック専用の電気機関車(左)と電動車リッテン駅構内にて(1965年撮影)Photo by Jean-Henri Manara at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0  山裾へのとりつきでは、斜面を覆うぶどう畑の上を長さ160mの高架橋で渡る。赤ワインの銘柄で知られるザンクト・マグダレーナ/サンタ・マッダレーナ St. Magdalena/S. Maddalena の村の前には、ラック区間で唯一乗降を扱う停留所があった。 リッテン駅上手の廃線跡現況(2019年)(左)高架橋の橋面はぶどう畑に、アーチ下は倉庫に再活用(右)リッテン駅出口(ラック区間始点)に残る橋台  さらに上ると、変電所を併設した信号所にさしかかる。ここはラック区間の中間地点に当たり、山上と山麓から同時に発車した列車が行違いを行った。機関車は回生ブレーキを備えているので、このダイヤにより、坂を下る機関車で発生した電力を、上りの機関車に効率良く供給することができた。 やがて車窓は森に包まれ、長さ60mのトンネルを通過する。再び視界が開けて、緑の牧草地に出れば、まもなくラック区間の終点マリーア・ヒンメルファールト/マリーア・アッスンタ Maria Himmelfahrt/Maria Assunta だった。この駅でラック機関車から解放された電車は、残りの、現在も運行中の区間を再び自力で走り抜けた。 マリーア・ヒンメルファールト駅の現況(2019年)(左)駅舎は1985年に開通当時の状態に復元(右)終端の先は牧草地に  20世紀前半、高原上にまだまともな自動車道路はなく、鉄道が文字通り「リッテンの生命線 Lebensnerv des Ritten」だった。しかし、第二次世界大戦後は、車両や施設設備の老朽化が顕著になる。鉄道の更新に投資するより、到達時間が短縮できるロープウェーの建設を求める声が大勢を占めた。また、山麓から高原に通じる新しい自動車道路の計画も進行していた。 ロープウェーの起工式は1964年8月に行われた。その矢先の同年12月3日、恐れていた事故が起きる。ザンクト・マグダレーナの上方で、山麓に向かっていた列車が脱線し、ラック機関車とともに落下したのだ。運転士と乗客3名が死亡し、30名が負傷した。 ラック線はいったん復旧されたものの、市内区間も併せて1966年7月13日が最後の運行となった。翌14日に山麓との間を結ぶロープウェーが開業し、オーバーボーツェン/ソープラボルツァーノ Oberbozen/Soprabolzano で鉄道に連絡する現在の方式がスタートした。ただし、これはあくまで暫定形で、自動車道路が全通した暁には、高原区間も廃止してバスに転換することになっていた。 ところが道路の完成が遅れ、その間に、観光資源として鉄道を再評価する機運が高まった。このいわば偶然のおかげで、リッテン鉄道は全廃の危機から救われたのだった。 1980年代には、施設設備の全面改修が実施された。また、車齢のより新しい中古車が導入され、名物だった古典電車の運行は今や、年数日の特定便に限定されている。 ラック区間を代替したリッテン・ロープウェー Rittner Seilbahn もすでに2代目だ。初代は50名収容のキャビンを使った交走式だったが、2009年に3Sと呼ばれる循環式に交換され、輸送能力が倍増した。これにより、リッテン鉄道も30分間隔での運行が可能になり、利用者の増加につながった。 リッテン・ロープウェーが急斜面を上る背景はボーツェン駅と市街地  ボーツェン市内から、鉄道の終点でリッテンの中心地区であるクローベンシュタイン/コッラルボ Klobenstein/ Collalbo へは、山道を上る市バス路線(165系統)もある。所要時間は30分ほどで鉄道経由と大差はないが、運行は平日日中60分間隔、休日は120分間隔とかなり開いている。輸送力や利便性の点で、やはりリッテン鉄道の交通軸としての位置づけは揺るぎないものになっているようだ。 次回は、ロープウェーと鉄道を使って、そのリッテン高原に出かけることにしよう。 ■参考サイトRitten.com http://www.ritten.com/Tiroler MuseumsBahnen http://www.tmb.at/schweizer-schmalspurbahn.de - Die Rittnerbahnhttp://www.alpenbahnen.net/html/rittnerbahn.html ★本ブログ内の関連記事 オーストリアのラック鉄道-シュネーベルク鉄道  シュネーベルク鉄道再訪記  オーストリアのラック鉄道-シャーフベルク鉄道  オーストリアのラック鉄道-アッヘンゼー鉄道 I close

リッテン鉄道 I-ラック線を含む歴史
サイト名 地図と鉄道のブログ
タグ 廃線跡 登山鉄道 軽便鉄道 鉄道
投稿日時 2020-08-12 07:00:17

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