オーストリアの保存鉄道リストの詳細

オーストリアの保存鉄道リスト
地図と鉄道のブログ
ページの情報
記事タイトル オーストリアの保存鉄道リスト
概要

保存鉄道リスト作成の第2弾として、オーストリア編を更新した。従来、サイトに上げていたのは2005年時点のデータだから、16年も経てばさすがに状況は変化している。盛業中の鉄道が多数を占める中で、不幸にも活動を停止したり、今後の存続が危ぶまれているものもあった。 ÖBBブレンナ…… more ー線ザンクト・ヨードック St. Jodok 付近を行くユーロシティ(2019年)Photo by Frans Berkelaar at wikimedia. License: CC BY 2.0  フランス編と同じように、観光鉄道やスペクタクルなルートを通る一般路線を含めて、1ページにまとめているので、ご覧いただければ幸いだ。 「保存鉄道リスト-オーストリア」http://map.on.coocan.jp/rail/rail_austria.html 「保存鉄道リスト-オーストリア」画面 ◆ オーストリアの保存鉄道事情は、ドイツやフランスとは様相が異なり、760mm軌間の狭軌路線が過半を占める。760mmは、イギリス由来の2フィート半(30インチ、762mm)をメートル法で再定義した軌間だが、今のボスニア・ヘルツェゴビナに大規模な路線網があったことから、ドイツ語ではボスニア軌間 Bosnische Spurweite/Bosnaspur という。 オーストリアでこの軌間が採用されたのは、1890年前後から第一次世界大戦ごろまでに建設された地方支線だ。幸いにも、多くが改軌や廃止を免れて残っている。標準軌線の駅を起点に谷筋を遡っていくルートが多いが、中には谷を上り詰めて峠越えを果たすものもある。後者はたいてい急勾配急曲線の険しい線形のため、蒸気機関車泣かせの、しかしファンには見せ場の多い人気路線になっている。 以下に掲げる3線はいずれも旧ÖBB(オーストリア連邦鉄道)線で、2010年に地元のニーダーエースタライヒ州に移管され、地域の観光資源として活用されている例だ。 項番1:ヴァルトフィアテル鉄道 Waldviertelbahn 北線と南線、それにハイデンライヒシュタイン Heidenreichstein 支線を合わせて82kmの長さがある。北線と南線は移管後、観光鉄道として再生された。夏のシーズンに毎日気動車が走っているが、日を限って蒸機が旧型客車を牽くノスタルジー列車も登場する。また、ハイデンライヒシュタイン支線でも、別途愛好団体が保存蒸機を運行している。 北線では、本線と支線が約2km並行する区間を舞台にした「アルト・ナーゲルベルクの並走 Parallelausfahrt von Alt-Nagelberg」がおもしろい。2本の蒸気列車が同時発車し、抜きつ抜かれつの競争を繰り広げる。もちろん演出なのだが、列車の乗客も応援に加わって、大いに盛り上がる。 「アルト・ナーゲルベルクの並走」を終えた列車が本線(右)と支線に分かれていく(2005年)Photo by Herbert Ortner at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0  一方、南線には大陸分水嶺を越える約8kmの峠道、通称「ヴァルトフィアテルのゼメリング Waldviertler Semmering」がある。最急勾配28‰の急坂に挑むMh形蒸機の奮闘ぶりが見ものだ。 「ヴァルトフィアテルのゼメリング」に挑むMh形蒸機(2019年)以下、コピーライト表示のないものは筆者撮影  項番9:マリアツェル鉄道 Mariazellerbahn カトリックの重要な巡礼地マリアツェル Mariazell に向かう電化路線で、一般旅客輸送を行っているが、旧型電気機関車または蒸機が牽く特別列車も運行される。全線86kmのうち、特に後半の山線 Bergstrecke は、小回りの利く狭軌の特性を如何なく発揮した区間だ。ヘアピンカーブを介した3段折り返しの坂道、高峰エッチャーを眺望しながらたどるエアラウフ峡谷の桟道、山中の貯水池を巻くレイアウトのような迂回路と、車窓は変化に富み、見飽きることがない。 ザウグラーベン高架橋 Saugrabenviadukt にさしかかるET形電車(2017年)Photo by Liberaler Humanist at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0  項番11:イプスタール鉄道 Ybbsthalbahn 支線を含め延長77kmと、上記2線にも匹敵する長大路線だったが、すでに大半で一般輸送が廃止され、見る影もない。幸い、東部にある峠越えルートでは線路が残され、「イプスタール鉄道 山線 Ybbsthalbahn Bergstrecke」の名で、愛好団体により保存運行が維持されている。牽引するのは蒸機または旧型ディーゼル機関車だ。最急勾配31.6‰、最小曲線半径60mと、こちらも劣らず険しいルートで、途中にある2本の華奢なトラス橋が行路のアクセントになっている。 トレッスルのヒューナーネスト高架橋 Hühnernest-Viadukt を渡る蒸機(2007年)Photo by Herbert Ortner at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 ◆ 非電化線ばかりでなく、電車が走る狭軌線にも見どころがある。 項番13:ペストリングベルク鉄道 Pöstlingbergbahn リンツ Linz の旧市街と、巡礼教会が建つ北郊の丘の上を結ぶために、ラックレールなし(=粘着式)で116‰もの急勾配を克服している驚異の鉄道だ。現在は900mm軌間の連接式トラムが市内から直通するが、2008年まではメーターゲージ(1000mm軌間)の独立路線で、特殊な非常用ブレーキを備えた専用車両が山上との間を往復していた。その旧車の一部が足回りを交換のうえ、週末の定期運行に投入されており、かつての様子をしのぶことができる。 起点ハウプトプラッツ Hauptplatz に停車中の改造旧車(2018年)  項番37:インスブルック・ミッテルゲビルゲ鉄道 Innsbrucker Mittelgebirgsbahn項番38:シュトゥーバイタール鉄道 Stubaitalbahn どちらもインスブルック Innsbruck 市街から南方に出ていくメーターゲージの電化路線だ。ミッテルゲビルゲ鉄道というのは開通時の名称で、1930年代にインスブルック市電(IVB)に統合され、それ以来、6系統を名乗っている。終点イーグルス Igls は、ジル峡谷 Sillschlucht 上部のテラス(棚状地)に載る村で、そこまでトラムが、山岳路線顔負けの連続オメガループを上っていく。残念ながら、並行バス路線との競合から廃止が検討されており、現状は日祝日のみの運行だ。 終点イーグルスで発車を待つトラム(2017年)Photo by Simon Legner at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0  一方、シュトゥーバイタール鉄道は健在で、インスブルック駅前から、市内軌道を経由して谷奥の終点フルプメス Fulpmes までトラムが直通する。6系統に比べて走行距離が長いだけでなく、ルートの平面形もはるかに技巧的だ。アルプスの高峰群に囲まれた見通しのきく高台を走り通すので、オーストリア屈指の美しい車窓風景が長く楽しめる。 ノルトケッテ Nordkette の山脈を望むクライト Kreith 停留所(2019年) ◆ 数は少ないものの、標準軌(1435mm)の保存鉄道、観光鉄道ももちろん存在している。 項番8:ヴァッハウ鉄道 Wachaubahn ÖBBドナウ河畔線 Donauuferbahn は、ドナウ川の渓谷に沿う景勝路線としてトーマス・クックの鉄道地図にも描かれていた。しかし輸送路としては傍流のため、中間部の廃止で東西に分断されてしまった。ニーダーエースタライヒ州に移管された東側のうち、クレムス Krems とエンマースドルフ Emmersdorf 間34.1kmでは、ヴァルトフィアテル鉄道と同様に夏のシーズン中、観光列車が走る。古城やブドウ畑の織り成す渓谷の景観を愛でながら、気動車でたどる約1時間の列車旅だ。 復路は、ドナウ下りの船に乗ってもいいし、路線バスで有名な修道院のある対岸のメルク Melk へ出るのもお勧めだ。 ドナウ河畔のブドウ畑を貫くデュルンシュタイン Dürnstein 付近の線路(2015年)Photo by Chris De Wit at wikimedia. License: CC0 1.0  項番22:エルツベルク鉄道 Erzbergbahn オーストリア最大の鉄鉱山から鉱石を搬出していたエルツベルク鉄道には、最大71‰の急勾配があり、1978年までアプト式ラックレールが使われていた。峠を越える中央区間での定期輸送は2001年が最後となり、現在はフォルデルンベルク・マルクト Vordernberg Markt~エルツベルク間で行われている旧型レールバスによる保存運行が、産業路線を体験できる唯一の方法だ。鉱山自体は今も稼働しており、列車が峠のトンネルを出ると、露天掘りの荒々しい採掘現場が見えてくる。 エルツベルクに向かうレールバスフォルデルンベルク Vordernberg 付近にて(2019年)Photo by Liberaler Humanist at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0  項番30:ローゼンタール蒸気列車 Rosenthaler Dampfzüge ケルンテン南部、ローゼンタール Rosental の旧ÖBBフェルラッハ線 Ferlacher Bahn で実施されている保存運行で、ヴァイツェルスドルフ Weizelsdorf とフェルラッハ Ferlach の間を蒸気列車が走る。これ自体は片道30分程度の短いものだが、終点に待機している路面電車(またはボンネットバス)が、訪問者を駅近くの製鉄所跡に造られた交通博物館「ヒストラーマ Historama」へ連れて行ってくれる。往復券(コンビチケット)を買うと、これら一連の料金が含まれている。 ローゼンタール蒸気列車のチラシ© 2021 Nostalgiebahnen in Kärnten ◆ 急坂を上るラック鉄道についても触れておこう。上記のエルツベルク鉄道ではラックレールが解体されてしまったが、オーストリアにはほかにも3か所で残っている。これらに共通しているのは、スイスのような電化の洗礼を受けなかったことで、そのため、今なお蒸機か気動車が運行の役を担っている。 項番5:シュネーベルク鉄道 Schneebergbahn ウィーナー・ハウスベルゲ(ウィーンの地元の山々)Wiener Hausberge の代表格であるシュネーベルク山 Schneeberg に上る登山鉄道で、ラックはアプト式だ。長らくÖBBに属していたが、上記の狭軌線などに先駆けて1997年から、州とÖBBが設立した別会社が運行を担うようになった(インフラ移管は2012年)。奇抜なまだら模様をまとった気動車「ザラマンダー Salamander(サンショウウオの意)」が、山麓と山上の間を約50分で結んでいる。 山上のエリーザベト教会前を通過する「ザラマンダー」(2018年)  項番20:シャーフベルク鉄道 chafbergbahn 映画「サウンド・オブ・ミュージック」の一カットにも登場したアプト式登山鉄道だ。標高1782mのシャーフベルク山 Schafberg は、ザルツカンマーグート Salzkammergut の三つの湖を眼下に望む天然の展望台として、観光客にはつとに人気が高い。老齢の旧型に代わり石油焚きの新型蒸機が導入されており、煙の迫力は劣るものの、映画のイメージもまだ保たれている。 シャーフベルクアルペ Schafbergalpe で対向列車を待つ新型蒸機(2010年)Photo by brandiatmuhkuh at wikimedia. License: CC BY 2.0  項番34:アッヘンゼー鉄道 Achenseebahn チロル州にあるラック鉄道だが、目的地は山頂ではなく、高台の湖畔だ。そこで、湖上を渡る船に連絡している。開通時期がより古い(1889年)ので、ラックレールは初期の方式であるリッゲンバッハ式だ。また、石炭焚きの古典蒸機が使われ続けていることでも注目を集めてきた。しかし悲しいことに、2020年3月に運営会社が破産し、運行再開の見通しは立っていない。 終点ゼーシュピッツ Seespitz で湖上船に連絡する蒸気列車(2005年)Photo by Herbert Ortner at wikimedia. License: CC BY 2.5 ◆ オーストリアの国土の西部から中央にかけては、スイスから続くアルプスが占めている。ユネスコ世界遺産に単独登録されたゼメリング鉄道 Semmeringbahn は、その東端を横断する鉄道だ。ほかにも、タウエルン線 Tauernbahn、ミッテンヴァルト線 Mittenwaldbahn など、ÖBBの一般路線にも景勝ルートがたくさんある。点在する小鉄道を訪ね歩くのはもとより、その道中でさえ、列車旅の楽しみはいくらでも発掘できるだろう。 ★本ブログ内の関連記事 フランスの保存鉄道リスト-北部編  フランスの保存鉄道リスト-南部編 close

オーストリアの保存鉄道リスト
サイト名 地図と鉄道のブログ
タグ 保存鉄道 登山鉄道 西ヨーロッパの鉄道 軽便鉄道 鉄道
投稿日時 2021-03-27 00:20:21

「オーストリアの保存鉄道リスト」関連ページ一覧

新着記事一覧

終点銀水駅の2駅手前、熊本県西部北端の荒尾駅にて、折り返し始発普通鳥栖行きに同一ホーム6分差お乗り継ぎ


Feel Fine!
昨日の下りでは大牟田駅での乗り継ぎでしたが上りはここ乗り継ぎが便利です♪
Feel Fine!
鉄道
2022-09-26 04:40:23

終点八代駅


Feel Fine!
でJR乗換口を含めて出張ってこられてたオレンジ色のポロシャツ(某カルト政党ではなく肥薩おれんじ鉄道のスタッフ)の方がスタンパーお持ち!につき旅...
Feel Fine!
鉄道
2022-09-26 03:40:23

【早朝限定レア運用】K運用の東西線 各駅停車 津田沼行き


レール7~切符補充券珍行先~
総武緩行線阿佐ヶ谷駅2番線に到着しようとするE231系800番台K6編成による各駅停車津田沼行きです。E231系800番台による各駅停車津田沼行き側面表示で...
レール7~切符補充券珍行先~
鉄道
2022-09-26 03:00:33

初石駅(千葉県)


「かがやき@駅名クイズコレクション」
駅の第780弾は、東武野田線の初石駅です。 千葉県流山市。柏寄りから見たホーム全景。 駅名標。当駅は急行が通過する。 東武8000系の柏行き...
「かがやき@駅名クイズコレクション」
鉄道
2022-09-26 01:40:27

山陰駅巡り22夏-京都兵庫鳥取編(25) 嵯峨野観光線 トロッコ嵯峨駅 ~DE10の牽くトロッコ列車~


きゃみの駅訪問
トロッコに乗車するため、嵯峨嵐山駅の南口に出てきました。トロッコ嵯峨駅の駅舎はすぐお隣にあります。トロッコ嵯峨駅は京都府京都市右京区嵯峨天龍...
きゃみの駅訪問
嵯峨野観光鉄道 鉄道
2022-09-26 01:20:26

【そうだ、千葉行こう】千葉都市モノレール1号線→県庁前 編


僕様の徒然なる隠れ家
2022.9.24((土)「取り敢えず大回りとか乗り鉄してぇ」ということで蘇我までやってきた俺房総半島を回るつもりが、予定を変更して千葉みなと駅へ降りた...
僕様の徒然なる隠れ家
ちょっとお出掛け 鉄道
2022-09-26 00:40:27
;