もうひとつの「ローカル線」問題~北海道新幹線と並行在来線【2】函館-長万部の課題の詳細

もうひとつの「ローカル線」問題~北海道新幹線と並行在来線【2】函館-長万部の課題
いかさまトラベラー
ページの情報
記事タイトル もうひとつの「ローカル線」問題~北海道新幹線と並行在来線【2】函館-長万部の課題
概要

 前回の続き。  北海道新幹線の並行在来線区間となる区間のうち、函館-長万部については、2021年度の輸送密度が1,636人(コロナ前の令和元年度で3,397人)であるが、新幹線アクセスの機能を有する函館-新函館北斗を除けば、その大部分は函館と札幌を結ぶ特急「北斗」に負っている。…… more やや古い資料だが、2016年に公表された2015年度の特急列車の利用状況と道南の輸送密度から考えて、新幹線札幌開業後の新函館北斗-長万部の輸送密度は500人を下回ると推測される。いわゆる「赤線区間」レベルではないものの、JRが一定の地元負担を求める考えの「黄線区間」相当である。 8月31日におこなわれた北海道新幹線並行在来線対策協議会の第9回渡島ブロック会議では、JR北海道から初期投資・資産譲渡を含めた収支見通しが提示された。この中には、特急列車の廃止により事実上不要となる藤城線(七飯-大沼の勾配緩和用の迂回線で、中間に駅はない)の廃止も見込まれている。全線を第三セクター鉄道化した場合、初年度の2030年度で14億円の赤字、30年間の累積赤字は816億円と試算されている。全線バス転換の単年度2.8億円、30年累積157億円(これでも相当の額だが)と比べても負担は格段に重い。会議の中でも地元自治体の長からは鉄道を残すことに積極的な意見は見られなかった。それはそうだろう。旅客輸送だけを考えればそうなるのは当たり前である。  問題は貨物輸送である。2020年貨物地域流動調査(国土交通省)によると、この区間を跨いで輸送される貨物は年間で4,989万t、うち鉄道輸送は396万tで、全体の貨物量におけるシェアとしては8%弱と決して大きくはないが、5tコンテナ換算で約80万個、1日2,000個以上がこの区間を往来している。この区間に設定されている貨物列車は1日20往復。特急「北斗」の倍近い。 特に北海道から本州への輸送量で大きなウェイトを占めるのが農畜産物輸送である。北海道開発局が実施している「農畜産物および加工食品の移出実態調査」によると、令和2年(暦年)の北海道から本州への移出は、生乳・花きを除いて322万t、うち86万tが鉄道輸送で、シェアは27%である。基準期間が異なるため一概には比較できないが、北海道から本州への鉄道貨物輸送量197万tのうち、4割以上を農畜産物・加工食品が占めていることになる。 食料自給率を確保するためには北海道からの円滑な農畜産物輸送が不可欠である。国土交通省「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」においては、5月に開催された会合でホクレン農業協同組合連合会がヒアリング対象となり、鉄道輸送の重要性について言及している。 この会合においてもう一つ興味深いのは、同じくヒアリング対象として防衛省が招かれ、有事に際しての装備品・補給品等の輸送手段として鉄道の重要性を訴求している点である。戦前の鉄道幹線網が主として貨物輸送を目的として整備されていったことは有名である。1942年(昭和17年)に開通した関門トンネルは、軍事輸送のために工期が圧縮され、連合国軍の攻撃により船舶輸送が壊滅的な状態となる中、終戦まで貨物輸送を継続した。今またそうした状況に巻き込まれることは誰しも望んでいないはずだが、ウクライナ情勢が緊迫化し、ロシアとの関係が悪化する中、防衛の側面からの鉄道の有用性は真剣に議論されてよいのではないかと思う。 いずれにせよ、こうした状況を考えると、函館-長万部の存廃問題は、これまでの並行在来線問題とは様相を異にする。東北・北陸・九州の各新幹線では、一定の旅客流動を背景として鉄道は存続されてきた。唯一の廃止区間となった信越本線・横川-軽井沢については、ローカル輸送はもともと少なく、貨物については上越線や中央本線などの代替輸送経路もあることから大きな問題には至っていない。 ところが、函館本線の五稜郭-長万部は、北海道と本州をつなぐ唯一無二の鉄道輸送ルートであり、この区間の存廃問題は地元自治体以上に北海道全体、とりわけ貨物の主要荷主である農業・工業関係者にとって深刻な問題なのである。 9月12日、国土交通省がこの区間の存廃問題について、北海道・JR貨物・JR北海道との4者協議を始めると報じられた。沿線自治体による旅客輸送の協議とは別に進められる模様だが、貨物輸送の側面から国が並行在来線問題に乗り出すのは異例である。 北海道の鈴木直道知事は、9月13日の定例会見で「貨物存続は国が中心となって検討するもの」と述べた。JR貨物はこれまでの線路使用料のルールから考えて大幅なコスト負担は受け入れない。JR北海道は並行在来線のルールに則って粛々と経営分離の準備を進めている。異例の決定は前例となり今後の同様の問題に影響を与える可能性もある。この区間の方向性はまだ見えてこない。 ランキング参加中です。みなさまの「クリック」が明日への糧になります。よろしかったら、ポチッとな。    close

もうひとつの「ローカル線」問題~北海道新幹線と並行在来線【2】函館-長万部の課題
サイト名 いかさまトラベラー
タグ JR北海道経営問題 鉄道
投稿日時 2022-09-21 03:00:32

「もうひとつの「ローカル線」問題~北海道新幹線と並行在来線【2】函館-長万部の課題」関連ページ一覧

新着記事一覧

終点銀水駅の2駅手前、熊本県西部北端の荒尾駅にて、折り返し始発普通鳥栖行きに同一ホーム6分差お乗り継ぎ


Feel Fine!
昨日の下りでは大牟田駅での乗り継ぎでしたが上りはここ乗り継ぎが便利です♪
Feel Fine!
鉄道
2022-09-26 04:40:23

終点八代駅


Feel Fine!
でJR乗換口を含めて出張ってこられてたオレンジ色のポロシャツ(某カルト政党ではなく肥薩おれんじ鉄道のスタッフ)の方がスタンパーお持ち!につき旅...
Feel Fine!
鉄道
2022-09-26 03:40:23

【早朝限定レア運用】K運用の東西線 各駅停車 津田沼行き


レール7~切符補充券珍行先~
総武緩行線阿佐ヶ谷駅2番線に到着しようとするE231系800番台K6編成による各駅停車津田沼行きです。E231系800番台による各駅停車津田沼行き側面表示で...
レール7~切符補充券珍行先~
鉄道
2022-09-26 03:00:33

初石駅(千葉県)


「かがやき@駅名クイズコレクション」
駅の第780弾は、東武野田線の初石駅です。 千葉県流山市。柏寄りから見たホーム全景。 駅名標。当駅は急行が通過する。 東武8000系の柏行き...
「かがやき@駅名クイズコレクション」
鉄道
2022-09-26 01:40:27

山陰駅巡り22夏-京都兵庫鳥取編(25) 嵯峨野観光線 トロッコ嵯峨駅 ~DE10の牽くトロッコ列車~


きゃみの駅訪問
トロッコに乗車するため、嵯峨嵐山駅の南口に出てきました。トロッコ嵯峨駅の駅舎はすぐお隣にあります。トロッコ嵯峨駅は京都府京都市右京区嵯峨天龍...
きゃみの駅訪問
嵯峨野観光鉄道 鉄道
2022-09-26 01:20:26

【そうだ、千葉行こう】千葉都市モノレール1号線→県庁前 編


僕様の徒然なる隠れ家
2022.9.24((土)「取り敢えず大回りとか乗り鉄してぇ」ということで蘇我までやってきた俺房総半島を回るつもりが、予定を変更して千葉みなと駅へ降りた...
僕様の徒然なる隠れ家
ちょっとお出掛け 鉄道
2022-09-26 00:40:27
;