鉄道時計といえば、なんといっても「19セイコー」でしょう。でも、今回は鉄道員の「腕時計」の方に注目のコトです。国鉄や各鉄道会社では、運転士、車掌、駅員（助役以上かな）、それぞれ懐中時計の「19セイコー」を支給（貸与）していましたが、時刻の確認のたびに片手がふさがる「19セイコー」…… more では具合がよろしくない。（※　以下、便宜上「支給」と「貸与」を同義語として扱います）また、技術が進み時計が普及していくとともに、腕時計が車掌に支給できる程度まで、価格が下がったようで。機械（オートメーション）生産を導入した「シチズン・ホーマー」まずは「セイコー・クラウン」という腕時計を支給し始め、そののちには「懐中はセイコー、腕時計はシチズン」という棲み分けができ（シチズンの営業マンが頑張ったんですね）、1965（昭和40）年、おなじみ「シチズン・ホーマー」が登場します。最初に「シチズン・ホーマー」を付けたのは、前年に開業した東海道新幹線の車掌さんだったそうです。鉄道時計といえば、裏蓋の刻印！「19セイコー」と同様、腕時計にも刻印がされています。時計は鉄道会社の所有物なので、管理番号としての役割があるんです。たとえば、門司鉄道管理局のホーマーの刻印がこちら。竜頭側を上にして裏蓋を閉めるのが正しいらしい･･･機械式（手巻き）のCal.020を搭載、市販品の「ホーマー」にはないハック機能（秒針規制・・・竜頭を引くと秒針が停止する機能です）が加えられています。ハック機能は「シチズン・クリステート」のようなハイエンド機に付けられる機能ですから、鉄道用の「ホーマー」は特別な時計なんですね。その代わり、耐磁性能を重視したため、市販品のホーマーにはついていることのある日付窓（デイ表示・デイト表示）はありません。文字盤に「穴」があると磁気帯び（帯磁）する可能性があるからということらしい・・・時計内部の機械は、磁気帯びすると正確な時刻を刻めなくなります。「帯磁」は機械式時計をお持ちの方には常識ですよね。スマホに近づけたり、上に置いたり、テレビの下に置いたり、スピーカーの上に置いたり、ダッシュボードの上に置いたり・・・全部アウトです！「シチズン・ホーマー」に話を戻して。ハック機能を搭載、そのかわり日付表示は省略！あくまで時刻を知り、運行時間を把握するための「実用時計」なんです。アラビア数字、白（または水色）の盤面、3本の針というシンプルさは実用に徹して華美な装飾を排した機能美を感じさせますよね。割ときれいな個体がありました。「シチズン・ホーマー」は年式からするとヴィンテージ品かな?「夜光の劣化・腐食」「竜頭交換品」「筐体・風防付近の腐食」「文字盤の劣化」は要注意ポイント！風防は樹脂製なので、浅い傷なら研磨して落とせますし、代替部品もあるようなので、神経質にならなくてよいポイントかも。名古屋・静岡・札幌各鉄道管理局は「名局」「静局」「札局」という刻印が好きみたい。乗務前には必ず時刻を合わせていかなければいけないのですが、車掌区などにある「基準時計」に合わせていくことになっています。秒針が12（00分）のところで竜頭を引き、時分を合わせます。現在時刻が10時49分なら、10時50分に合わせておき、基準時計が50分00秒になるのに合わせて竜頭を押し戻します。すべての車掌さんが同じ作業をします。時刻の「整正」というのだそうです。（もちろん運転士も同じく時刻の整正をしているのは言うまでもありません）文字盤が白いモノと水色のモノがあります。「Citizen Homer」などの筆記体のロゴは、太文字だったり細めの文字だったり、あまり一貫性がないのも面白いところです。昭和50年代、腕時計に大変革の時代が訪れます。1964（昭和44）年12月。セイコーが、世界で初めてのクオーツ式腕時計「アストロン」を発売開始。当時の価格で45万円という、乗用車よりお高い超高額な価格でした。しかし、セイコーがクオーツムーブメントの特許を公開し開発競争の結果、皆の手が届く価格まで下がってきたのです。クオーツ式時計の精度は、機械式時計がどんなに頑張っても追いつけないレベルでした。機械式の誤差は「日差（1日に何秒か）」クオーツの誤差は「月差（1ヵ月に何秒か）」ところで、国鉄はじめ鉄道会社では、耐磁性能に疑問あり?　とみてクオーツムーブメントの採用に消極的でした。結果的には機械式時計より磁気帯びの影響が小さく、コストも抑えられる、などの理由から、機械式の「シチズン・ホーマー」から、ほぼ同サイズ・同デザインの「シチズン・クオーツ」に変更。概ね1979（昭和54）～1980（昭和）55年の支給分から変わったようです。支給年と製造年は必ずしも一致しませんので、はっきりいつから、とは断言できないのがもどかしい。デザインの大きな変化はありませんが、「Citizen Homer」「21Jewels」「Second Setting」の表記から「CITIZEN QUARTZ」「CQ（ロゴ）」に変わっています。基本的には同じ･･･ですが、裏蓋の形状が防水性を高めたデザインとなっています。当然ハック機能も付いており、「整正」は現在のクオーツ時計でも同じ方法で行われているそうです。機械式の「ホーマー」や「19セイコー」ほどの誤差は出ないでしょうけど、やっぱりおろそかにしてはいけない作業、ルーティン、なのだそうです。刻印も国鉄だから全国同じ･･･というわけではなさそうです。米子鉄道管理局の刻印。国鉄の王道という刻印です。鉄道管理局によっては西暦の下二ケタと管理番号を続けて「東南鉄81554」などと5ケタ打ちしているものも見かけます。変わりデザインの刻印は福知山鉄道管理局。刻印が小さい！小文字刻印という人もいるんだそうです。昭和61年といえば、国鉄末期の頃ですからコストダウンの一環だったのかもしれませんが、詳細は判らぬ･･･ごめんなさい！「国鉄だから全国の鉄道管理局でも横並びに同じ刻印パターンにするよ！」とはならなかったのは、ホーマーもCQも19セイコーも同じです。訓練を受け、見事車掌になった･･･のに支給された時計が「シチズン・ホーマー」ではなく「シチズン・クオーツ」だった、とがっかりした国鉄職員もいた、とターミナル駅の近くの時計店のご主人から話を聞いたこともあります。ちなみに、手巻きでぜんまいを巻かない「シチズン・クオーツ」（CQ）の竜頭には「CTZ」の浮き文字がなく、のっぺりしたアタマのものがついています。逆に、「シチズン・ホーマー」の竜頭は、径が小さくても巻きやすいギザギザとともに、アタマに「CTZ」と浮き文字がありますので、CQのようなツルペタな竜頭がついている個体は、竜頭を交換したものです。オリジナルの状態がいいと思うのは人情ですが、プラ風防（いわゆる樹脂製の「ガラス」のこと）や竜頭は消耗品ですので･･･。 close

鉄道時計・腕時計編その１～国鉄からJRへ、手巻き機械式からクオーツへ