シュネーベルク鉄道再訪記の詳細

シュネーベルク鉄道再訪記
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記事タイトル シュネーベルク鉄道再訪記
概要

ウィーン滞在中、良く晴れた日を狙って、標高2076mのシュネーベルク Schneeberg へ出かけた。山はウィーンの南西65kmにあり、2000mを越えるピークとしてはアルプス山脈の東の端に位置する。麓の村からその山を上っていくシュネーベルク鉄道 Schneebergbahn …… more というラックレールの登山鉄道に乗ることが、遠出の目的だ。 ÖBBの気動車(左)からの客を受けて、山上へ向かう列車(右)プフベルク駅にて、背景はシュネーベルク山 実は19年前に一度、この鉄道に乗ったことがある。しかし、あいにく天候に恵まれず、列車は上っていく途中で濃霧に包まれてしまった。むろん山上からの見通しはまったくきかなくて、真夏というのにめっぽう寒かったことを覚えている。それで、再訪するなら好天でなければ意味がなかった。 鉄道の沿革等については、旧稿「オーストリアのラック鉄道-シュネーベルク鉄道」を参照していただくとして、今回は旅の一部始終を記していこう。 ◆ 朝のウィーン中央駅から、7時58分発のEC(ユーロシティ)エモナ Emona 号に乗り込む。リュブリャーナ行きのエモナは以前も使った列車だが、まだ健在で、前方の数両はスロベニア国鉄のコンパートメント車両が使われている。ウィーン・マイドリング Wien Meidling で大勢の客を拾った後、葡萄畑の中を滑るように走ると、次の停車駅はもうウィーナー・ノイシュタット Wiener Neustadt だ。列車を乗換えなくてはならない。 ウィーン中央駅のエモナ号水色帯の車両はスロベニア国鉄のもの この先は、プフベルク線 Puchberger Bahn と呼ばれるÖBB(オーストリア連邦鉄道、いわゆる国鉄)のローカル線になる。2両連接の気動車が、登山鉄道の待つプフベルク・アム・シュネーベルク Puchberg am Schneeberg 駅(以下、プフベルク駅と記す)との間をつないでいる。緑の平野が尽きると、小さな峠を、軽便鉄道のような急カーブ急勾配の線路で越えていく。のどかな風景のまま、9時24分、終点に到着した。 (左)ウィーナー・ノイシュタット駅でプフベルク線の連接気動車に乗換え (右)車内 プフベルク駅はすっかり新しくなっていた。2015年に完成した増築駅舎の1階に、スーベニアショップを兼ねたチケットカウンターが置かれ、上階は小さな鉄道ミュージアムになっている。構内を見回すと、左手に建つ旧来の木造車庫とは別に、右奥に新建材で造られた車庫兼修理工場がある。稼働中の車両はこちらに移され、木造車庫は主に使われていない機関車や客車の置き場になっているという。 プフベルク・アム・シュネーベルク駅(左)左が新しい増築駅舎、右の旧駅舎は管理棟に(右)増築駅舎1階のチケットカウンターに並ぶ人の列 プフベルク駅構内、正面奥が新しい車庫兼修理工場 登山鉄道の切符は、ÖBBとは別だ。昔なら出札窓口に駆け込むところだが、いまどきの乗車券はネット予約ができるから、あらかじめ購入し、印刷してある。公式サイトには、始発9時00分の次が10時30分発と書かれていたので、それに乗るつもりだ。 ところがカウンターのモニターを見ると、30分間隔の発車になっている。しかも直近の9時30分発はもとより、次発、次々発と2本先まですでに満席だ。今買おうとすれば、11時発しか空いていない。ÖBBの気動車から降りたのは30人に満たなかったので、この盛況ぶりは意外だった。国際的な観光地ではないものの、シュネーベルクは相変わらず地元の人気スポットなのだ。実際、駅の周辺にはクルマがずらりと駐車してあり、客の多くが自家用車やマイクロバスでここまで来ている。 予約した10時30分発を待つ間、近くの公園に置かれている小型蒸機を見に行った。標準軌の小型機関車(92.2220、1898年製)で、かつてプフベルク線を走り、22号機「クラウス Klaus」と呼ばれていたものだ。それから駅に戻って、2階ミュージアムを見学する。当時の写真や資料類が展示されていて、床続きのテラスにも出られる。そこから標準軌とラックレールが並ぶ駅構内や、青空に映えるシュネーベルクを眺めているうち、改札開始のアナウンスが流れた。 (左)近くの公園に置かれていた標準軌の小型蒸機(右)駅構内の記念碑「1895~1897年に造られたラック鉄道の製作者レオ・アルノルディを記念して」 開通120周年を記念する駅舎2階ミュージアムの展示 団体客に交じってぞろぞろとホームに出ると、ラックレールに対応した連接気動車「ザラマンダー Salamander」が入ってきた。前回乗りに来た時はまだ導入されたばかりで、サンショウウオを模したという濃緑地に黄斑の大胆な塗装に、衝撃を受けたものだ。先頭には、山上へ貨物を届けるための小さなトレーラーを伴っている。ザラマンダーの前で常にくっついて走るので、その名も「ザラマンダー・ベイビー Salamander-baby」だ。気動車が3編成揃ったことで、かつて活躍した蒸気機関車は完全に脇役に退いてしまった。5両あるうち、動けるのはもはや2両で、7~8月の日・祝日に懐古列車 Nostalgiezug として使われるだけになっている。 (左)ホームに列車が入線 (右)貨物を運ぶザラマンダー・ベイビー ザラマンダーの車内は、通路をはさんで3人掛けと2人掛けのシートが向い合せに並んでいる。予約は定員管理をしているだけで、席は決まっていない。ほとんどの区間で、進行方向左側に眺望が開けるのだが、南向きなので陽光をまともに浴びることになる。一般客は眩しさを敬遠するようで、難なく左端の席をとることができた。 車内(帰路の撮影につき座席には余裕がある) やがて汽笛が短く鳴り、シュネーベルクに向けて発車した。列車はプフベルクの村里を縫った後、ヘングストHengstというシュネーベルクの前山に取りつき、その山腹をおもむろに上っていく。ブナや針葉樹の森が延々と続く。時刻表にはヘングストタール Hengsttal(起点から1.160km)とヘングストヒュッテ Hengsthütte(同 4.523km)という停留所が記されているが、どちらもリクエストストップらしく、列車は停まらなかった。 それに対して、シュネーベルクの山塊を目前にしたバウムガルトナー Baumgartner(同 7.360km)では、すべての列車が停車する。蒸機ならここで給水するのだが、その必要がないザラマンダーにも5分の休憩時間が与えられる。この間に乗客は列車から降りて、休憩所で売られているブフテルン Buchteln という、パン生地にジャムなどを混ぜて焼いた菓子を買い求めるというのが、お決まりの行事だ。しかし、おやつの時間には中途半端なのか、この列車では名物を手に入れた人は少なかった。 (左)プフベルクの盆地から山中へ(右)バウムガルトナー停留所、正面に山上の教会が見える(いずれも帰路撮影) 停留所を後にして、鞍部に築かれたホーエ・マウアー Hohe Mauer(高い石垣の意)を渡る。俄然勾配が急になり、後ろにつく動力車のエンジン音がひときわ高まる。それとともに視界が大きく開け、ヘレンタール Höllental の谷を隔てて、隣に横たわるラックス Rax 山塊も姿を現した。2本のトンネルを介したS字ループをじりじりと回り切れば、もう山上の台地だ。 (左)終盤は隣のラックス山塊が姿を現す(右)トンネル出口の雪囲い、線路はこの中に 最後のカーブを回って山上の台地に出る かつて山上の終点は、エリーザベト教会 Elisabethkirche の前だった。終点といっても嵩上げされたホームも屋根もなく、あるのは乗員が待機するための小屋だけだった。2009年に山の家 Berghaus の前に新しいホームが完成し、これに伴い線路は、山の家への引込み線を利用して133m延長された。 エリーザベト教会の前を通過 一方、貨物の受け渡し所だけは、旧駅跡に残されている。列車はそこでいったん停車し、ザラマンダー・ベイビーから手早く荷物の積み下ろしが行われた。そして教会の前を通過し、おもむろに新駅に入っていく。11時10分着、所要40分の列車旅だった(下山する列車は38分)。ホームは、アーチ形の屋根とアクリルのパネル壁に覆われ、悪天候のときでも乗降に支障がない。出札など駅の機能は、山の家の中に設けられている。 山上旧駅跡(左)配線は残存するが片方は使われていない(右)ザラマンダー・ベイビーから貨物の積み下ろし 山上新駅(左)車庫のような新駅、右奥は従来からある山の家(右)新駅は全天候型ホーム しばらく山上を散歩した。エリーザベト教会は修復工事中で入れないが、麓から山の目印になっているだけに、裏庭に回ると下界の眺望がみごとに開ける。波打つ山地に囲まれて明るい緑の横縞を描く牧野に、集落の屋根が点々と浮かんでいる。ひときわ密集しているのがプフベルクの村で、登山鉄道の始発駅も見える。遠方はかすんでいるものの、シュタインフェルト Steinfeld と呼ばれるウィーン盆地南部の広がりが感じられる。 ヴァックスリーガーから東を望む。右端がプフベルクの村 眺望が利く東側に対して、西側はヴァックスリーガー Waxrieger というコブ山が目の前に立ちはだかり、シュネーベルクの主峰を隠してしまう。ここまで来たからにはその稜線を拝みたいので、ヴァックスリーガーへの山道を上った。駅との比高は80m、さほど時間はかからない。十字架のそびえる頂に立つと、抜けるような青空のもと、期待通りホッホシュネーベルクの大パノラマが展開した。 左のクロスターヴァッペン Klosterwappen(標高2076m)から右のカイザーシュタイン Kaiserstein(同 2061m)まで、長く続く灰白の稜線がシュネーベルクのピークだ。駅から延びる登山道は、左から山小屋ダムベックハウス Damböckhaus の前を通過し、ハイマツの群落が散らばる山腹をジグザグを描きながら上っていく。数人ずつ、稜線に載る山小屋フィッシャーヒュッテ Fischerhütte をめざして歩いていくのが見える。山頂までは3km程度で、みな比較的軽装備だ。 ヴァックスリーガーから西を望む正面右がシュネーベルクの主峰、クロスターヴァッペンからカイザーシュタインにかけての稜線。左手前から延びる登山道がジグザグに上っていく左後ろの蒼い山塊はラックス山 帰りの列車も予約してあるのだが、あまりにいい天気なので、一つ下のバウムガルトナーまで歩いて降りようと思う。山上駅との標高差は400mほどだ。道標に1時間とあったので高を括っていたが、急坂なうえに小石の転がるザレが随所にあり、いささか歩きにくい山道だった。かなり下ったところで踏切を渡り、後はホーエ・マウアーに沿って林道を降りる。 山上から見下ろすバウムガルトナー停留所では、列車の交換中 山上からバウムガルトナーへ降りる登山道(左)ザレ場が断続し、足を取られる (右)目的地がはるか右下に (左)ラックレールの踏切を渡る(右)ホーエ・マウアー区間に設置された、突風による脱線転落を防ぐ護輪軌条 それでもバウムガルトナーでは、発車時刻まで20分ほど余裕があった。当然、名物のシュネーベルクブフテルン Schneebergwuchteln を試さなければならない。フィリングは、マーリレ Marille(アプリコットジャム)とポウィドル Powidl(スモモのムース)の2種から選べる。アプリコットとビールを注文して、テーブル席でいただく。けっこう歩いたので、ビールの炭酸がことさら喉にしみる。甘酸っぱいジャムの味を楽しみながら、ブフテルンにかかっている粉砂糖がシュネーベルクの雪を表していたことに改めて気づいた。 バウムガルトナー停留所にて(左)ホームに隣接するテーブル席 (右)雪を表す粉砂糖のかかった名物ブフテルン そろそろ列車がやって来る頃だ。先に到着したのは、麓から上ってきたザラマンダーだった。まもなく山上からの列車が山腹に現れ、その姿がじわじわと大きくなってくる。シュネーベルクを背景に直線のホーエ・マウアーを降りてくる列車風景は、シュネーベルク鉄道の写真の定番だ。これがヴィンテージ蒸機だったら、なお絵になるのだが。 バウムガルトナーでの列車交換 ■参考サイトシュネーベルク鉄道(公式サイト)  http://www.schneebergbahn.at/ close

シュネーベルク鉄道再訪記
サイト名 地図と鉄道のブログ
タグ 登山鉄道 西ヨーロッパの鉄道 鉄道
投稿日時 2019-02-18 01:00:08

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