祖谷渓の「鉄道」巡り-奥祖谷観光周遊モノレールの詳細

祖谷渓の「鉄道」巡り-奥祖谷観光周遊モノレール
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記事タイトル 祖谷渓の「鉄道」巡り-奥祖谷観光周遊モノレール
概要

奥祖谷観光周遊モノレール 延長4.6km、2人乗りモノラック(急傾斜地軌条運搬機)による周回線所要65分、高度差590m、最急勾配40度2006年開業 祖谷渓と祖谷川祖谷温泉から下流を望む  比高1000mにも達するような険しいV字の谷、崖際をたどる狭い一本道、見上…… more げるほどの高みに点々と張りつく集落。徳島県西部に位置する祖谷渓(いやだに)は、広域合併で住所が三好市になったというものの、今なお秘境と呼ぶにふさわしいエリアだ。 山一つ隔てた吉野川本流に沿いJR土讃線が走っていて、周辺で鉄道路線とされるのはこれが唯一だ。しかし意外なことに、祖谷渓でも「鉄道」の乗車体験ができる。険しい山中だけに普通鉄道ではないのは自明だが、ではいったいどんな鉄道なのだろうか。 ◆ 阿波池田からレンタカーで国道32号線を南下する。大歩危(おおぼけ)で左折して、ヘアピンカーブの県道を上り詰め、長さ967mの祖谷トンネルを抜ければ、そこはもう祖谷渓だ。整備された2車線道路はかずら橋の入口で終わり、その先は対向不能の狭隘区間が断続的に現れる難路になる。大歩危から1時間以上も走った菅生(すげおい)地区で国道から分かれ、向かいの山腹をなおも上っていく。こうしてようやく今日の宿「いやしの温泉郷」に着いた(下注)。 *注 路線バスで行く場合は、阿波池田または大歩危駅前から四国交通祖谷線で終点の久保まで行き、三好市営バスに乗換えて菅生で下車後、徒歩25~30分。 祖谷渓への玄関口、大歩危駅  奥祖谷観光周遊モノレールの乗り場は、この施設のすぐ裏手にある。泊まった翌朝、早めに宿を出て、そちらへ向かった。運行開始は8時30分(下注)だが、今は連休中で宿泊客も多い。当日の予定運行数が完売したら、時間内でも受付を中止するという、案内パンフの不穏な警告文が気になっていた。 *注 運行日は4月から11月の、水曜を除く毎日。運行時間は4~9月が8:30~17:00、10~11月が8:30~16:30で、受付は運行終了時刻の1時間前まで。12~3月は全面運休する。 ■参考サイト奥祖谷観光周遊モノレール周辺の1:25,000地形図http://maps.gsi.go.jp/#15/33.868000/133.978700/モノレールのルートが特殊鉄道の記号で描かれている モノレール駅舎と走行線  8時前に係の人たちが出勤してきて、乗り場のシャッターが開いた。予想に反してその時刻にいた客は、わがグループのほかに家族連れが1組だけ。遅れて何組かやってきたが、皆ゆっくり朝食を楽しんでいたらしい。車両は2人乗りだが、4分間隔で出発するから、この人数なら1時間程度でさばけるだろう。 出札窓口で大人2000円の乗車券を買い求めた。悪天候に備えて雨具やカイロも売っている。駅舎は車庫を兼ねていて、走行線に並行する数列の留置線に、車両が数珠つなぎに停めてあった。走行線へはトラバーサー(遷車台)で移動させているそうだ。 (左)出札窓口と乗り場(右)留置線に並ぶ車両、手前にトラバーサーが来る  まず朝の試運転機が、無人で1台出発していった。次が私たち3名で、始発機と2番機に分乗する。車両は1人席が直列に2個並んでいる。前面にカブトムシの目と角がついた遊園地仕様なのが、ちょっと気恥しい。 出発に先立って、備え付けのトランシーバーの使い方について講習を受けた。人里離れた森の奥では携帯電話が通じないので、これが唯一の連絡手段になる。続いていくつか注意事項を聞いた。 「シートベルトは常に締めておくこと。急な下り坂では転落する恐れがあるので、足を踏ん張り、前面のバーをしっかり握っていてください。運行状況により、自動で走行と停止を繰り返すことがあります。もし前方に停車中の車両を発見したら、停止ボタンを押すこと。立ち往生した時は連絡をもらえば係員が向かいますが、山道を歩いていくから時間がかかります。最大3時間は待ってもらうことになるので、乗車前に必ずトイレに行っておいてください…。」 無人の試運転機が行く  使われているシステムは、ニッカリ株式会社が開発した「モノラック(急傾斜地用軌条運搬機)」という名称の産業用モノレールだ。みかん山などで見かける運搬装置を機能強化したものに他ならない。駆動方式は、主レールに取り付けられた下向きのラック(歯棹)に、車軸のピニオン(歯車)を噛み合わせる、いわゆるラック式だ。そのため急勾配に強く、性能上45度の登坂が可能だという。さらに右側に並行する平滑レールで車両を安定させ、左側の給電レールからはモーターの動力を得ている。 走るルートは延長4.6kmの周回線で、一周するのに65分かかる。しかも、観光周遊という優しげな名前にもかかわらず、実態は登山鉄道で、起点と最高地点との標高差が590mもある。上昇100mにつき気温は0.6度下がるので、3.5度の気温差が生じている計算だ。その間ずっと乗りっぱなしだから、トイレを済ませておくように、との指示も当然のことと言える。 モノラック車両  出発のときが来た。8時43分、係の人に見送られて駅舎を出ると、ループを回って杉の植林地に入っていく。 下り線が左側につき、複線になってまもなく、交差する林道をまたぐための急坂が待ち受けていた。のけぞるような勾配をぐいぐい上るので、早くもラック式の威力を実感する。距離を所要時間で割った表定速度は毎分70m、時速にすると4.2kmだ。歩速並みのゆっくりしたペースだが、走りは着実で頼もしい。 (左)林道をまたぐ急坂(右)戻ってきた試運転機  周囲はいつしか人工林から自然林に変わった。コナラ、イヌシデ、コシアブラなどと、樹種を教える名札がそこここに立ててある。ゆっくり観察する時間はないが、自然教室に来た気分だ。50mごとの標高値を記した札が、いつしか1000mを越えている。発車から約10分後、朝一番に出た試運転機とすれ違った。無事戻ってきたということは、この先の走行に障害がないらしい。 (左)樹種の名札が沿線に(右)標高値を記した立札  往路の中盤では、小さな沢が右手に沿う。清水が勢いよく流れ落ち、水音が静寂の林にこだましている。何かの小屋を通り過ぎたところで、下り線が木々の間に消えていった。ここから頂上にかけて、大きなループ、すなわち環状線になっているのだ。同じ線路でも単線になったとたん、心細さが募ってくるのは不思議だ。運行間隔からして280m四方には誰もいないはずだし、事実、先行している始発機も、最後まで姿を見かけることはなかった。それに乗っていた友人は、途中で鹿が走り去るのを目撃したそうだ。 沢を清水が流れ下る  地滑り跡にできたと思われる小さな沼地を通過。どこまで登るのだろう、とやや不安になった頃に、進行方向の視界が開けてきた。稜線に載り、少し上ったところが標高1380m(下注)の最高地点だ。地形的には、四国の屋根の一部をなす三嶺(さんれい)の、中腹に生じた肩の部分にあたる。時計を見ると9時15分、およそ30分かけて登りきったことになる。晴れた日にはこのあたりで東に剣山(つるぎさん)を望めると聞いたが、今日は霧が漂い、視界がきかなかった。 *注 モノレールのパンフレットに従い、1380mとしたが、地形図では、その付近に1385mの標高点が打たれている。 下り線と分かれる地点 (左)小さな沼地を通過(右)稜線に出たが、霧で視界がきかない  復路は、下り一方かと思うとそうでもない。地形図の等高線でも読み取れるが、湿原のある小さな谷を巻く区間がある。勾配が落ち着き、少しほっとする数分間だ。しかしまもなく、鵯(ひよどり)越えの逆落としのような急坂が復活し、上り線と合流する。 湿原と、それを巻く線路  同じところをさっき上ってきたはずだが、下りのほうが勾配感がはるかに強い。乗り場での注意を思い出して、手すりを握り、足を踏ん張った。ピニオンがラックレールとしっかり噛み合っていて、下りでもジェットコースターのような加速はないから安心だ。 この間に何度か後発機ともすれ違い、孤独感はいつのまにか薄れていた。林道をまたいで右に曲がると、ゴールの駅舎が見えてくる。9時46分に無事帰着。 (左)逆落としの下り坂(右)束の間、祖谷渓が望める ゴールの駅舎が見えてきた  秘境奥祖谷の山中を行くこのモノレール、65分の乗車時間は子供連れには長すぎるという意見も目にする。確かに、長時間座席に固定され、気晴らしになる眺望も少ないから、レジャー向きとは言えないかもしれない。しかし、林野の植生や山岳地形に興味のある人なら、退屈している暇はないだろう。いわんや、学校で社会科の地図帳に架空の鉄道を落書きしていたような線路好きの私にとっては…。 ■参考サイト大歩危祖谷ナビ-奥祖谷観光周遊モノレールhttps://miyoshi-tourism.jp/spot/okuiyakankoshuyumonorail/ ◆ レジャー向きということなら、より小規模なモノレールが、西祖谷の中心、一宇(いちう)の対岸にある「祖谷ふれあい公園」で稼働している。名称をてんとう虫のモノライダーといい、同じモノラックでもレール1本の簡素な構造だ。乗車時間も8分で、遊園地の遊具に近い。 高台の公園に上って降りてくるという周回ルートだが、最頂部ではこの谷一帯を俯瞰できるし、急斜面でのUターンなど、ささやかながら見どころもある。祖谷渓の入口に位置し、比較的アクセスしやすいのも長所だ。どのような設備かは、以下の写真でご覧いただこう。 ■参考サイト大歩危祖谷ナビ-祖谷ふれあい公園https://miyoshi-tourism.jp/spot/祖谷ふれあい公園/ てんとう虫のモノライダーの乗り場 少々狭いが、2人乗りも可! (左)公園まで急坂を上る(右)急斜面でのUターン 最頂部からの眺め  ★本ブログ内の関連記事 立山砂防軌道を行く 黒部ルート見学会 I-黒部ダム~インクライン 紀州鉱山軌道の楽しみ方 close

祖谷渓の「鉄道」巡り-奥祖谷観光周遊モノレール
サイト名 地図と鉄道のブログ
タグ 日本の鉄道 登山鉄道 鉄道
投稿日時 2020-01-13 02:00:13

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